筆者:吉田哲也
債務整理を依頼するが、夫に内緒にしたい、妻に内緒にしたい、と言う人がいます。気持ちは分かりますが、これは基本的にいけません。「内緒の債務整理をした人は、必ず借金を繰り返します。」
なぜか?内緒で借金をしていること自体が借金増の原因になっていることが多いからです。
たとえば、主婦が300万の借金をしているとします。話を聞いてみると、5年くらい前、夫の給料では生活費が不足することがあったときに、初めてサラ金 から借入れ、その後しばらくは何とか夫の収入から返していたが、夫の収入では間に合わなくなり、自らもパートに出たがそれでも足りず、他のサラ金から借入 れをして返済に回す自転車操業となったとのことです。この方は、遅くとも、収入より返済額の方が多くなったときに、手を打つべきでした。しかし、この方 は、夫に借金の総額などについて話をすることができないまま、ずるずると借金を重ねました。こうした経過をみると、この方の借金増の原因のひとつが「夫に 内緒にしている」ことにあることが分かります。
債務整理をすれば、一時的には、「家計のマイナス状態」は解消されるかもしれません。しかし、 収入よりも支出が上回ってしまうことは、これからもあることでしょう。たとえば、子供の進学費用がいるかもしれません。夫が病気になって収入が激減するか もしれません。身内の不幸が重なって香典で予想外の出費を強いられるかもしれません。そうしたときに、この方はどうするでしょうか。妻が債務整理をしたと は思いもよらない夫は家計に関心がありません。すると、妻はまた借入れをすることでしょう。こうして、借金が繰り返されます。
任意整理や個人 再生の場合には、引き続き支払っていかなければなりませんから、「内緒」の弊害はさらに大きくなります。分割払いの場合には、家族全体で家計を管理してい かなければなりません(ここでいう「管理」とは、家族が代わりに支払うということではありません。)。
家族の財布は「ひとつ」です。家族の一 人が多重債務に陥る過程をみれば、家族全体の経済状態(収入も支出も)が複雑に絡み合っていることが分かります。したがって、債務整理をするときには、こ の複雑に絡み合った家族全体の経済状態を明らかにし、原因を取り除いてこそ、「債務整理が完了した」ということになるのです。
「内緒の債務整理」は、ただの対症療法であって、多重債務という「病気」はすぐに「再発」してしまうのです。